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PFAS地下水汚染対策、沖縄の湧き水と生物多様性の保全

2023.6.29

技術講演資料

2023年6月15日・16日開催の第28回「地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会」に流機エンジニアリングが出展し、当社山内が「PFAS地下水汚染対策、沖縄の湧き水と生物多様性の保全」をテーマに発表いたしました。
流機エンジニアリング_太名嘉組_エンバイオエンジニアリング

山内仁 1・西村章 1・伊禮敏郎 2・宮城盛 2・草場周作 3・安原雅子 3

 1 流機エンジニアリング・2 太名嘉組・3 エンバイオ・エンジニアリング

1. はじめに

生物多様性の保全は生態系の保全保護のみならず、社会・経済活動の基盤を守るという広義の目的に変化し、気候変動と並ぶ重要課題として認識されている。

沖縄県も例外ではない。例えば生物多様性保全の取り組みの一つとして、湧水地帯という自然環境を活かし各コミュニティに“せせらぎ”やビオトープを設置するなど、親水地域を都市計画に組み込むことで自然環境を保全すると同時に、住民の健康と福祉、地域自然環境とのつながりを創出する自治体が増えてきた。

しかし、それらの取り組みの中で問題となっているのがPFASによる湧水汚染である。すでに地域住民や県民の憩いの場になっていたエリアやこれから湧水活用を計画されているエリアで、現在は安全上の観点から湧水の利用を停止しているケースが散見されている。

筆者らはPFASの湧水汚染で中断している生物多様性への取り組みを技術的にサポートする目的で、「憩いの場に集う人たちが安心して湧水と遊べる環境を再び創出する」ことをゴールに活動を進めてきた。

本研究では、沖縄の湧水や河川水を用いて、フィルター・機能性粉体法(以下、本技術。本研究では機能性粉体にヤシ殻活性炭を使用)による浄化効果を確認するとともに、本技術が機能性粉体を活かしPFASを効率的に吸着除去する仕組みについて検討した結果を報告する。

2. 沖縄の湧水の地質的成因、 水質と歴史文化との関わり

  • なぜ、沖縄には湧水が多いか? その理由は琉球石灰岩とその下位の島尻層泥岩にある 3), 4), 5)
  • 沖縄の湧水の水質は、硬度および水温が高い
  • 「カー」とは沖縄の言葉で井戸または湧水を指す。また、共同井戸を村(ムラ)ガーと呼び、湧き水を樋川(ヒージャー)」という。 カーは先史時代から人々の生活との結びつきが強く、信仰の対象となっている 5)
  • この湧水が、地質的歴史・人間の歴史の長い時間の中でほんの一瞬といえる今、PFAS汚染により使えない状態にされつつある

 

表1 琉球石灰岩、島尻層群の地質と比抵抗の特徴

表1 琉球石灰岩、島尻層群の地質と比抵抗の特徴

表2 沖縄の湧水と本土の湧水の水質比較

表表2 沖縄の湧水と本土の湧水の水質比較

写真1 宜野湾市 名勝「森の川」の湧水

写真1 宜野湾市 名勝「森の川」の湧水

3. 湧き水・河川水の処理結果と評価

  • 沖縄本島中部の湧水(表3のA)および河川水(同B,C)を対象としてPFAS除去試験を実施
  • 湧水Aは、SSが不検出で濁度が低い。総硬度は最も高い
  • 河川水A,Bは、褐色に混濁しており、SSおよび濁度が高い
  • 河川水A,Bの処理では、前処理でSSを除去した後に本処理を行なった
  • 本技術と、凝集沈澱とで、処理前・後濃度の比較を行った

 

【試験手順】

  1. 試料B,C原水に対して、凝集剤(市販の無機系凝集剤12%溶液・200ppm)添加。次に、φ70mm平膜10)を使用の(-10kPa)減圧ろ過型試験器 11)を用いろ過。ろ過水を凝集処理PFAS測定検体とする
  2. 試料A,B,C(B,Cは手順1処理後の試料)を本技術で処理
  3. 使用機能性粉体:市販のヤシ殻活性炭、D50=12μm、乾燥減量(wt%)5以下、比表面積(㎡/g)1,020以上1,310以下、活性炭添着量500g/m2(φ70mm平膜に活性炭1.92g)

 

【処理結果】

  • 本技術処理後の濃度は全て不検出(図1)。SS・濁度が存在しても、ファウリングを防止する前処理を行うことにより、浄化可能であることを確認
  • 凝集処理だけではPFOSは概ね50%程度の除去率、PFOAおよびPFHxSでは優位な除去効果は認められず

 

表3 原水の濃度

表3 原水の濃度

図1 原水濃度と処理後濃度  0=1ng/L未満

図1 原水濃度と処理後濃度  0=1ng/L未満
画像9 減圧ろ過試験器 原水場所と採水状況

4. フィルター・機能性粉体法での処理手順

【処理手順】

  1. ファウリングを防止するために、原水に少量の凝集剤添加やオゾンマイクロバブル処理、次亜塩素酸ナトリウムを添加
  2. 粉末活性炭をフィルター表面に添着させて、粉末活性炭薄層をフィルター表面に形成する(以下、添着層)。活性炭量は標準300g/㎡〜700g/㎡で、添着層の厚さは約0.6㎜〜1.4mm
  3. 原水を添着層でろ過して汚染物質を吸着除去する。ろ過する際の透過流束(Flux)は標準100〜400LMH(L/㎡/h)。活性炭量300g/㎡(φ70mm平膜では1.15g)、Fluxが200LMHの場合ではろ過水の添着層通過時間は約10秒(図3の試験仕様)
  4. 粉末活性炭は汚濁物質を吸着するにつれ、その吸着能力は低下、破過する。破過のタイミングは、事前に活性炭の対象物質吸着容量を知った上で、処理水の濃度や処理量により把握
  5. 活性炭が破過するタイミングで、自動で“活性炭のみ”の入れ替え、フィルターは連続使用
  6. PFAS等の有害物質の処理後では、使用済み活性炭は脱水し容器に封入して廃棄物として処分。無害な畜産排水処理では使用済み活性炭の肥料化を開発中

 

図2.1  装置配置と仕組み

図2.1  装置配置と仕組み

図2.2  粉末活性炭添着層と原水の流れ

図2.2  粉末活性炭添着層と原水の流れ

5. 活性炭が細粒化すると “なぜ”能力が高まるのか?

  • 粉末活性炭は、粒子サイズが小さいほど比表面積が大きくなり、粒子内拡散距離が短くなることから吸着速度や吸着量が向上する 15)
  • 粉末活性炭をフィルター添着・積層させることにより、単位体積あたりの活性炭密度・表面積が大きくなり、間隙が狭くなることから、PFASを効果的に引き付け吸着する(“鬼ごっこ理論”) 16)
  • 粒状活性炭吸着処理や粉末活性炭を用いた攪拌振とうと比較して、本技術を用いた場合の除去率、吸着容量および吸着速度を表4に整理

 

表4 フィルター・機能性粉体法と従来方法との能力比較

表4 フィルター・機能性粉体法と従来方法との能力比較

図2 粉末活性炭(実際の粒径D50=12μm)を直径1mとした場合の間隙の比較
左:粒状活性炭、右:粉末活性炭

図2 粉末活性炭(実際の粒径D50=12μm)を直径1mとした場合の間隙の比較

粉末活性炭(実際はD50=12μm)の、ひと粒大きさを仮に直径1mとすると、粒状活性炭の間に空いた間隙は180mにもなる(図2左)。両脇にいる粒状活性炭が“鬼ごっこ”の鬼だと考えると、間隙が大きいので、溶存物質は鬼に捕まらず水の流れと共に下流側にどんどん逃げてしまう。
一方、粉末活性炭を添着させた場合は図2右の状態になる。粉末活性炭の間に空いた間隙はわずか40cmである。これだと、水は狭い間隙を通過するので、溶存物質は活性炭に効果的に引きつけられていく。

5.1 連続通水(処理)試験

【図3の試験内容】

原水(入口)PFOA濃度を10万ng/Lと設定。本技術(加圧定流量ろ過試験器、φ70mm平膜、使用活性炭は前述と同じ、添着活性炭量1.15g・厚さ0.6mm)で連続処理。Flux200LMH、処理水の添着層通過時間10秒

【図3の試験結果(原水と処理水濃度)の特徴】

  1. 原水(入口)濃度は10万〜12万ng/Lで変化
  2. a:(処理水の添着層通過時間10秒)初期の処理水濃度2.5ng/L
  3. PFOA濃度 50ng/L 超過まで約97Lを処理
  4. 処理水濃度は、(右縦軸・線形目盛にすると)僅かに加速して上昇
  5. b:原水濃度上昇18,760ng/Lを、ほぼ吸収(処理水上昇濃度10ng/L)
  6. c:原水濃度上昇・6,962ng/Lを、約1,000ng/Lしか吸収せず(処理水濃度急上昇)

 

図3 通水量とPFOA出口(原水)濃度と出口(処理水)濃度

図3 通水量とPFOA出口(原水)濃度と出口(処理水)濃度

加圧定流量ろ過試験器

加圧定流量ろ過試験器

5.2 活性炭量(密度)別 振とう(反応)時間-PFOA濃度確認試験

原水PFOA濃度10万ng/Lとして、原水200mLに対し、粉末活性炭量A=0.1mg、B=0.5mg、C=3.0mgを添加・振とう。液中の活性炭量別に、振とう(反応)時間と濃度は以下の関係式で近似された

上記の関係は

y ax –n ・・

ここで、y:濃度ng/L、x:反応時間、a:反応1秒後の濃度、n:活性炭量(活性炭密度)により決る常数
①関係式を、図3での「処理水の添着層通過時間10秒、初期の処理水濃度2.5ng/L 」の条件に当てはめると、関係式はとなる

y = 508.6 x -2.3  ・・・②   X=1秒の時の除去率99.5%

 

図4 振とう時間とPFOA濃度の低減

図4 振とう時間とPFOA濃度の低減

5.3 添着層内でのPFAS濃度低下曲線

図5 原水の移動と“ろ過・浄化”の進行

図5 原水の移動と“ろ過・浄化”の進行

図4式を図2.2粉末活性炭添着層に重ね書き
式 = 濃度低下曲線
本図のa、b、cは、図3のa、b、cに対応

  1. 原水入口側で高い濃度の溶存物質と接し吸着除去が行われている最前列を“吸着前線”と呼ぶ
  2. 吸着前線直後の濃度低減は、急激と考える
  3. 活性炭は、少ない量でより高い液中濃度に接している方がその吸着容量は大きくなる(上図)
  4. 吸着前線ではこの状態にあり、粉末活性炭の能力を最大に活かした吸着が行われていると考える

6. まとめおよび展望

  1. 特徴:本技術は、多機能性材料を粉体化・フィルター上に積層して使用することにより、多機能性材料の能力を格段に引き出す技術である。PFAS除去では、除去率・活性炭の吸着容量が向上するとともに、従来技術と比べ、(試算)CO2排出量は1/3〜1/7に削減ができる 16)
  2. 課題1:ファウリング防止が課題の一つになるが、前処理で解決できる(実績を増やしている)
  3. 課題2:複数種類のPFASが共存する状態や、さらに溶存有機物(mg/Lオーダー)が共存する状態での、競争吸着とその程度は不明である。解明したい
  4. 課題3:図3式および図5“吸着前線”の考え方の検証したい
  5. 展望:溶存有機物等に影響されずPFASを選択的に吸着できる多機能性材料(粉体)の選択と本技術との組み合わせによる技術開発を進めたい
PFAS地下水汚染対策、沖縄の湧き水と生物多様性の保全

【参考文献】

3)氏家 宏,兼子尚知(2006):那覇及び沖縄市南部地域の地質,地域地質研究報告 5万分の1地質図幅, 那覇(18)第13・14号NG-52-27-3・7

4)寒河江健一,ハンブレ マーク,小田原啓,千代延俊,佐藤時幸,樺元淳一,高柳栄子,井龍康文(2012):沖縄本島南部に分布する琉球層群の層序,地質学雑誌,第118巻第2号,p.117–136.

5) 日本地下水学会(2021):2021年秋季講演会現地見学会しおり

6)森一司,加藤俊典,西田研,小田友也(1997):宮古島砂川地下ダム流域における垂直電気探査の適用性,応用地質,第38巻第2号,p.54-64

7) 東田盛善,佐竹洋,渡久山章(2001):沖縄島の湧水と河川水の化学的特徴と同位体組成,地球化学,35,p27-41.

8) 藪崎志穂,島野安雄(2009):平成の名水百選の水質特性,地下水学会誌,第51巻第2号,p127-139.

10) 西村章,西村聡(2020):濁水処理コスト 1/10 を実現した革新的膜処理装置(ECOクリーン),一般社団法人 日本産業機械工業会主催 第46回優秀環境装置表彰資料,p.39-57.

11) 山内仁,西村章,西村聡,木滝悠介,渡部一孝,矢部千尋(2022): プリーツフィルター・機能性粉体法による難分解性有機化合物の除去,第28回地下水土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集,p7-11.

13) 稲田康志,林広宣,服部晋也,森口泰男,宮田雅典(2010):有機フッ素化合物の淀川水系における動向と浄水処理過程における挙動,第54回日本水道協会関西地方支部研究発表会発表概要集,p.79-82.

14) 沖縄県企業局(2021):北谷浄水場粒状活性炭実施設計業務委託報告書

15)安藤直哉,松井佳彦,松下拓,大野浩一,佐々木洋志,中野優(2008):活性炭の超微粉化が活性炭吸着に与える効果,環境工学研究論文集,第45巻,p.309-315.

16) 西村章,山内仁(2023): 機能性粉体の能力を活かすECOクリーンLFPとPFAS汚染地下水の浄化,化学装置,2023年3月号,p10-14.