弊社ではこの春から新たに、中国GB規格(主にVOC規制)に対応していくため
「中国環境ソリューション室」を立ち上げました!
そこで室長の山内より中国の土壌汚染修復の開拓を目指した環境コラムを
不定期配信させていただきます。市場動向のご参考にぜひご一読ください!
2012年2月、この街に初めて来た。中国江蘇省南京市。この街のカンターパートに早速案内された場所は、長江(揚子江の中国での呼び名)沿いにある広大な工場跡地。地名は燕子磯。筆者はこの地での土壌汚染修復案件受注を目指し、南京での環境対策ビジネスと生活を開始することになる。
燕子磯は長江右岸、南京市街地側にある三大名磯の一である。周辺は1947年創業の古い石油化学工場など、大小400余りの工場と商店や住宅学校が立ち並ぶ地域であった。説明によると、過去南京市では北東の風が吹くと悪臭が発生したと。発生源を突き止めてみると当地であることが判明した。当地域一帯の都市化再開発(面積13.8km2、人口22万人の町造り)に伴い、工場は2010年頃までに新しい工業団地に移転させられていた。当該工場跡地では、2012年までに南京市傘下の公的研究機関が土壌汚染調査を行い、修復が必要な範囲等をまとめていた。浄化工法には原位置浄化が指定され、汚染土壌の外部持ち出しや埋戻し土壌の搬入は禁止されていた。
この当時、中国では土壌汚染に関する法律はなかった。土壌汚染修復の根拠となった文書は、おそらく、「南京市固体廃棄物汚染環境防治条例(2009年)」や「江蘇省工場用地汚染防治に関する通知(2013年)」である。後者の行政文書では、「2006年以来江蘇省内では化学工業企業を対象とした整理整頓を3回行い、計6000社の化学工業企業を閉鎖した。それに伴う化学工場跡地の環境安全保障はますます重要になっている。・・(中略)・・修復が必要な汚染地について、汚染責任者または土地使用権を有する者はその修復工事を計画しなければならない。修復案は専門家の審査承認を受けてから実施す」と示されていた。現在の土壌汚染防治法(2019年施行)にも通じる規制内容である。その後、国務院から「最近の土壌環境保護と総合対策に関する作業計画(2013年)」が示された。その中で、2015年までに法制度の構築が示されており、早期の法施行が期待されていた。
しかしながら2013年新春、北京市から南京市にかけて強い濃霧が頻繁に発生していた。単に霧と思っていた私であるが、濃霧の最中のPM2.5は非常に高いことが判明した。どうもこの濃霧はPM2.5が原因となって発生していたようなのである。濃霧及びPM2.5が環境問題としてクローズアップされてきた。
この年、PM2.5などの空気品質を改善する目的で、大気十条(大気汚染防行動計画についての通知)が水や土壌に先んじて公布された。中国の環境対策は大気から本格化した。一方、当時私が専門としていた土壌汚染関連の法制度の整備は2019年まで待つことになる(表1参照)。
表1 環境安全トピックとその後に交付された制度や政策
環境安全トピック | 大気 | 水 | 土壌 |
2013年1月:北京アメリカ大使館データにより、濃霧時のPM2.5濃度が高いことが判明、大気汚染が社会問題化。
2016年4月:常州外国語学校土壌汚染健康被害事件、土十条の公布が早まるとの報道。 2019年3月:江蘇省化学工場爆発事故、環境安全意識高まる。 |
2013年9月:大気十条公布。5ヵ年計画の政策。大気品質数値目標の達成、大気汚染防治法の改正、塗料・接着剤中VOC含有量の上限値標準、総量規制、排汚許可証等の制度完備などが示され、2017年に目標達成と評価。
2018年からは、青空防衛戦に勝利する3カ年行動計画(国務院)が政策を継続。
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2015年4月:水十条公布。
2018年1月:水汚染防治法(2017年改正法)施行。 2019年4月:江蘇省化学工業産業安全環境保護整治工場計画発表。化学工業園区の安全と環境維持のため、長江及びその支流から1km以内に立地する工業園区の移転または廃止等。 |
2014年2月:調査・修復・リスク評価の技術ガイドライン発表。
2016年5月:土十条公布。 2019年1月:土壌汚染防治法施行。 |
このコラムを書くために南京市の地図を探していたところ、面白い世界地図を見つけた。坤輿万国全図(こんよばんこくぜんず)。1602年に北京で刊行された全世界をほぼ完全に記載した最古の地図。1608年に模写され南京博物院に所蔵されている。私の手元にある地図は南京博物院で買い求めた土産品。ちょうど良い。全球をイメージしたこのコラムのタイトルを考えていたところだ。坤輿万国全図を眺めながら全球への環境安全ソリューションの旅を語らうことにする。
タイトルの写真は、南京旧市街地を囲む城壁。1366年から建てられ、1386年に完工。完工時の全長は35キロ、高さは14~21メートル、城門13を数える。橋の袂は私が最も好きな城門、中華門の入口。
2012年3月、中華門から初めて望む南京市街。手前は南京城の甕城(おうじょう)。東西の長さ128メートル、南北の長さ129メートル、面積16512平方メートルあり、3つの甕城(小城郭)、4つの城門と27の蔵兵洞がある。3000人の兵士を配置することが可能で南京防衛の要であった。明代に築かれたレンガ造の城壁、白壁の落ち着いた雰囲気の住宅街、その奥に霞んで見える高層ビル。この後、私が暮らした街である。
南京市街北西側の丘陵獅子山に建つ楼閣・閲江楼(えつこうろう)から、長江を望む。写真中央は長江を渡る南京長江大橋、全長4,589m。右側奥丘陵が燕子磯風景区、その先に私が土壌汚染修復を目指した工業園区があった。
当該工業園区近くの長江。上海-南京間の長江では10万トン級のばら積み貨物船が通航できるという。航行する貨物船が常に列を作る。3月の水は冷たくはなく、淘汰の良い極細粒の砂が流水に濁りを与えている。
山内仁の紹介
株式会社流機エンジニアリング
アジアアフリカ環境ソリューション室 室長
国立弘前大学教育学部卒業、同大学院理学研究科(地質)修了。理学修士。専攻:地質学、堆積学、教育学。技術士(応用理学部門(地質)、総合技術監理部門)。
大手コンサルに所属していた1994年ニカラグア国マナグア市上水道整備計画基本設計調査(JICA)、1998年汚染土壌等復旧工事総括監理業務(環境省)に従事。エンバイオ・グループに所属していた2012年から中国での土壌汚染対策に従事。近年は操業中工場向けに診断から様々な環境対策(排気・排水・土壌・廃棄物・水資源活用)を提供する中国環境リスクソリューションを構築する。2021年2月より、現職。