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コラム「坤輿万国全図」匂い(香り)と臭い・中国の悪臭対策制度

2021.4.16

コラム「坤輿万国全図(こんよばんこくぜんず)」2021年4月号 「匂い(香り)と臭い・中国の悪臭対策制度」

書き始めを考える時、コラムの主題とともに使用する写真に思いを巡らす。今回は南京料理の写真を選択した。南京料理は八大中華料理の一つ・江蘇料理の下位分類になると言われている。川魚や鴨などのほか野菜を多用する。味付けは上海料理のように甘くはなく、四川料理に比べると辛くはない。料理を注文するとよく「麻辣可以吗(辛いの大丈夫)?」と問いかけられる。南京料理は麻と辣の味や香りの程よい料理である。南京料理を味わう際には「可以(大丈夫)」と答え、少し辛い味を試すと良い。

写真の料理店は南京料理の専門店、南京市獅子橋歩行者街にある南京大牌档(ダーパイダン)。清代の屋台街をイメージしているとのこと。高級店と思いきや、値段はお手頃。料理からは食欲がそそられる「匂い(香り)」が放たれていた。しかし、会食の部屋に向かう通路では何やら吸う息を抑えたくなる重い「臭い」が有ったことも記憶している。

「臭い」に関する工場の環境課題は、2018年から認識していた。同年春、ある日系機械工場の環境リスク診断を行なった。環境対策の行届いた工場であった。しかし、近隣の住宅地化に伴い悪臭の苦情が入りだしたという。当該地域一帯は工場用地であったはずなのに。2019年秋以降、頂いた問合わせの半分は悪臭対策である。悪臭が環境課題として顕在化してきている。

まず、中国の悪臭対策制度についてみてみよう。

日本の悪臭防止法の中国版には、悪臭物質排放標準(GB 14554-93、1993年)や、この改訂版・意見請求稿(GB14554-201□、2018年)及び上海地方標準悪臭汚染物排放標準(意見請求稿)2016年などがある。基準は物質別の濃度(mg/m3)、排放速率(kg/h)や臭気濃度(※1)で示されている(表1)。悪臭物質排放標準(GB 14554-93)では高さ15m煙突出口での臭気濃度の標準値は2000であった。しかしながら、改訂版である意見請求稿・2018年では臭気濃度の標準値は1000である。2000では規制が緩く、苦情発生のリスクも大きかったということか。現在でも多くの工場で許可されている臭気濃度上限値は2000と思われる。苦情リスクの低減や新制度への対応準備として、悪臭対策の強化は必要であろう。

表1 悪臭対策の制度

標準名称 中国国家標準

悪臭物質排放標準(意見請求稿)

GB14554-201□、2018年

代替 GB 14554-93

上海地方標準

悪臭汚染物排放標準意見請求稿

DB31/×××-2016

日本

悪臭防止法(昭和46年)

 

規制項目数 8+臭気濃度(※1) 22+臭気濃度 22
規制項目

名称

アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチル、ジメチルスルフィド、二硫化炭素、スチレン、臭気濃度 アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、

メチルメルカプタン、硫化メチル、ジメチルジスルフィド、二硫化炭素、スチレン、プロピオンアルデヒド、N-ブチルアルデヒド、N-バレルアルデヒド、酢酸ブチル、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、モノメチルアミン、ジメチルアミン、アクリル酸、メチルエチルケトン、エチルベンゼン、臭気濃度

アンモニア、メチルメルカプタン、硫化水素、硫化メチル、ニ硫化メチル、トリメチルアミン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ノルマルバレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、イソブタノール、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、トルエン、スチレン、キシレン、プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸、イソ吉草酸
標準値など A:(煙突)排出上限値

煙突高さによる排放速率(kg/h)

臭気濃度 例:煙突高さ15m以上で1000(GB14554-93では2000から)

B:敷地境界濃度上限値

濃度(mg/m3)、臭気濃度20

A:(煙突)排出上限値

濃度(mg/m3)、排放速率(kg/h)

煙突高さによる臭気濃度 例:煙突高さ15m以上30m未満工場の標準値800

B:敷地境界濃度上限値

濃度(mg/m3)、臭気濃度 工業用地20

敷地境界の基準

排出口の基準

排出水の基準

物質濃度若しくは臭気指数(※2)

 

用語の説明

※1 臭気濃度:臭気のある気体を無臭の空気で希釈し、臭いが感じられなくなった希釈倍数を臭気濃度という

※2 臭気指数:においの付いた空気や水を、においが感じられなくなるまで無臭空気(水の場合は無臭水)で薄めたときの希釈倍率(臭気濃度)を求め、その常用対数値に10を乗じた数値のことをいう

例: 臭気濃度100  =  臭気指数20 = 10×log100

 

次に、排気悪臭対策の進め方をまとめた。

  1. 悪臭発生源と悪臭原因物質の把握

生産工程に基づき、悪臭発生源と原因物質種類を大まかに絞り込む。絞り込まれた原因物質種類のなかで、項目数を増やした排気濃度測定を行い、悪臭発生場所及び原因物質・濃度を特定する。

アルデヒド類や硫黄化合物等に嗅覚閾値の小さな物質(低濃度でも悪臭原因となりえる物質)があり、注意が必要である(図1)。これらの物質は通常の排気モニタリングで分析されることは少ない。

図1 物質と嗅覚閾値

 

 

 

B)悪臭物質発生抑制の検討

生産工程や原材料物質の変更による悪臭物質発生抑制の検討を行う。燃料を軽油から天然ガスに変えることにより硫黄化合物の発生量低減を図ることも可能である。

C)無組織排気封じ込め・処理風量の検討

発生源から悪臭排気を封じ込めて有組織排気にした場合の処理風量の検討を行う。

D)脱臭装置の導入

悪臭発生場所、悪臭原因物質と濃度、処理風量に応じた脱臭装置を選定・設置する。VOCs処理用として多く用いられている活性炭吸着法では、代表的な悪臭物質であるアルデヒド類の除去率が小さい(図2)。物質に応じた脱臭方法の選定が重要である。また中国では既存の排気処理装置を活用した脱臭装置の導入が効率的である。

以上の一連の対応はWebでも可能である。アルデヒド類、トリメチルアミン、アンモニア、メチルメルカプタン、硫化水素、硫化メチル及び二硫化メチル等に対しては、オゾンや触媒を用いた脱臭技術を用意している。お問い合わせいただければ幸いである。

図2 活性炭吸着による除去率(%)の一例

写真1 湖南路獅子橋歩行者街。屋台や大小飲食店が並ぶ。探せば羊串の店もある。お分かりになるだろうか、右手に南京大牌档の看板が見えている。

写真2 南京大牌档(ダーパイダン)の店内。

 

写真3 長江の川魚料理(ヒラメのような食感)と鴨料理(「塩水鴨」と呼ばれるアヒル料理)

 

写真4 これらの食材を売っている青空市場。淡水の魚介類の種類が豊富である。鼈や蛙も魚屋の商品となる。