沖縄南部、琉球石灰岩と湧水の巡検最後の見学地は米須地下ダムである。地下ダムとは、「水を通さない壁(止水壁)を地下に造って、今まで利用されずに海に流れ出ていた地下水をせき止め、琉球石灰岩(表1参照)の小さな空隙を利用して地下水を貯める施設」である。米須地下ダムは糸満市米須地内、ひめゆりの塔から歩いて行けるところ、県道223号線(魂魄之塔線)沿いのさとうきび畑の中にあった。私が過去に所属していた会社は止水壁施工や調査設計で沖縄の地下ダム建設に携わっていたため是非見学したい場所であった。この道は2014年にも通ったことがあったが、地下ダムと知って訪れるのは今回が初めてである。
地下ダムには大きく2つの機能がある(図1参照)。
【 地下ダムの機能 】
- 地下水をせき上げて、地下水量を増加させる
- 海岸部では、海水の地下水への浸入を防ぎ、地下水の塩水化を防止する
図1 地下ダムの機能 (出典:内閣府沖縄総合事務局 http://www.ogb.go.jp/o/nousui/nns/index.htm)
米須地下ダムは海岸付近に設置されており、水を通さない壁(止水壁)が海水の侵入を阻止する役割ももっているという。地下ダムは堤体も貯留域も通常地下にあることから、地上ダムと比べ次のような特徴がある(出典:沖縄本島南部土地改良区 http://nanbu-chika-dam.jp)。
①地下ダムは地下の琉球石灰岩の小さな空隙を利用して貯水するため、水没地がなく、ダム完成後も地表部分は従前と同じ土地利用が可能
②地下水の流動が比較的遅いため、干ばつ時でも多雨時に地下浸透した地下水が徐々に貯留域に涵養され、長時間にわたって安定した取水ができる
地上のダムに比べて、地表の土地利用や斜面防災、景観上の制約がなく便利な機能を持つダムである。しかしながら、このダムの機能を維持するためには地下水汚染を防止しなければならない。地下水の流動が遅いことから、一旦地下水が汚染されると水質の回復のためには非常に長い年月を必要とする。気になる汚染の原因物質は沖縄で顕在化しているPFASと、農用地での硝酸性窒素である。
弊社は、PFAS汚染水の浄化、硝酸性窒素地下水汚染原となる畜産排水や生活排水の浄化・窒素リンの回収ができるプリーツフィルター・機能性粉体法(略称LFP法、膜ろ過式高精度水処理装置にPFASや窒素・リンの吸着ができる機能性粉体を組合せた水処理方法)の実用化を進めている。
表1 当該地域の琉球石灰岩、島尻層群の地質と比抵抗の特徴1)、2)、3)
地層名 | 特徴 | 模式地 (代表的露出地) |
層厚 (地層の厚さ) |
岩相 (組成・構造など) |
堆積環境 (地層が堆積した環境) |
堆積年代 | 地層の比抵抗 (Ω・m) |
琉球層群 (琉球石 灰岩) 港川層 那覇層 糸満層 |
沖縄島中南部に分布し,サンゴ礁複合体に特徴的な生砕物からなる,白色から淡黄色の多孔質な石灰岩の地層 多くの気孔を含んでおり多量の地下水を浸透させる性質がある |
沖縄県八重瀬町(旧 東風平町)八重瀬嶽及び糸満市与座岳付近 | 模式地で約50m、うるま市平敷屋付近で最大60m程度、その他の地域では20m程度 | 淘汰の悪いタイプの砕屑性石灰岩 | サンゴ石灰岩は水深10m から50m の礁斜面で,淘汰の悪いタイプの砕屑性石灰岩は水深150m から 20m の礁前縁で堆積したと推定されている | 170万年 〜 45万年前 |
琉球石灰岩 300〜400(土砂状で粘土が多い) 1,500〜2,000(塊状硬質で粘土を含まない) |
島尻層群 新里層 与那原層 豊見城層 |
泥岩(シルト岩)主体 この泥岩は沖縄島や宮古島ではクチャと呼ばれ、風化してできた土壌はジャーガルと呼ばれる 水を通しにくい |
沖縄本島南西部 | 2,600m以上 | 主に暗灰色シルト岩と砂岩や凝灰岩を挟むシルト岩からなる | 半深海(水深約1000m)で堆積したと推定されている | 800万年 〜 200万年前 |
10〜20 |
参考文献
1)氏家 宏,兼子尚知(2006):那覇及び沖縄市南部地域の地質,地域地質研究報告 5万分の1地質図幅 那覇(18)第13・14号NG-52-27-3・7
2)寒河江健一,ハンブレ マーク,小田原啓,千代延俊,佐藤時幸,樺元淳一,高柳栄子,井龍康文(2012 年 2 月):沖縄本島南部に分布する琉球層群の層序,地質学雑誌第118巻第2号,p.117–136
3)森一司,加藤俊典,西田研,小田友也(1997):宮古島砂川地下ダム流域における垂直電気探査の適用性,応用地質,第38巻,第2号,p.54-64
写真1 米須地下ダム
左:米須地下ダムの見学施設。樹木下の側溝に水面が見えている。地下ダムの地下水面であろうか。右:地下ダム止水壁建設で原位置攪拌工法で用いた三軸オーガー。三軸オーガーで琉球石灰岩を下位の不透水層(島尻層群、表1参照)まで掘削し、引き上げるときにオーガーの先端からセメントミルクを注入させ、砕かれた琉球石灰岩と撹拌混合し、地下に連続したコンクリート止水壁を造成した。後ろに、さとうきび畑が見えている。
写真2 米須塩泉(スーガー)
米須塩泉(スーガー)は米須海岸に接した岩の中から湧き出る泉。米須地下ダムの近くの海岸にある。貝塚時代(約2000年前)にも利用されていたとみられる湧水。満潮になると海水面に没してしまうが、干潮になると勢いよく水が湧き出す。潮に関係あるため、「潮(スー)ガー」と呼ばれているらしい。
写真左:海岸の砂礫の下から泉が湧き出ている。米須地下ダムを越流した地下水であろう。
執筆者紹介
株式会社流機エンジニアリング
開発部 独創品開発グループ
山内 仁
2021年 現職
環境コンサル・エンジニアリングを専門に
大気・水・土壌の汚染問題、課題解決に向き合っている