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コラム「坤輿万国全図」 中国のカーボンピークアウト政策

2022.10.14

中国のカーボンピークアウト政策:産業分野におけるカーボンピークアウト実施方案(工业领域碳达峰实施方案、2022年8月)

日本では2013年に達成したと言われているカーボンピークアウト。中国では昨年から今年8月にかけてカーボンピークアウトに関する主な文書が3本出ている。

  • 2030年までのカーボンピークアウトに向けた行動方案(2030年前碳达峰行动方案、国務院、2022年11月)
  • 上海市カーボンピークアウトに向けた実施方案(上海市碳达峰实施方案的通知、2022年7月)
  • 産業分野におけるカーボンピークアウト実施方案(工业领域碳达峰实施方案、工业和信息化部 国家发展改革委 生态环境部、2022年7月)

 

カーボンピークアウトの制度を纏めようと書き出したのが8月下旬、すでに2ヶ月近く経過したが、作文が進まない。制度に示された政策は言語明瞭、しかし政策の言語に続く感性が湧いてこない。何故か?? お彼岸の行事をすすめながら“ふと”思ったことは、「カーボンニュートラルに関する自分の中の引き出しや辞書が少ない、要するに、まだ学びが足りない! 出来るとこから、ゆっくり学んで纏めよう」であった。

弊社ではカーボンニュートラルに関わるプロジェクトを11案件実施している。私もこのうちの6件に関わっている。この中で特に大事な関わりをしているのが排気中の二酸化炭素を回収してカーボンリサイクルやCO2をそのまま利用する技術(CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization:CO2回収・利用))である。プロジェクトマネジメントや技術の他に、政策や市場についても学ばなければならない。その暁には話題も多くなることを期待して。

今取り組んでいる技術の一つは、二酸化炭素(CO2)とカルシムイオン(Ca2+)とが結合して炭酸カルシウム(CaCO3)となり、固体として沈殿する反応を利用した回収である。簡単な無機反応での化学式は以下のとおり示されている。石灰水に息を吹き入れ白濁することで二酸化炭素の存在を知る理科の実験の再現である。

Ca(OH)2 (石灰水・水酸化カルシウム水溶液、強アルカリ性)+ CO2 → CaCO3(炭酸カルシウム・析出して白濁)+ H2O

生成したての炭酸カルシウムは白濁する微粒子であり、この微粒子を回収するにあたり弊社の革新装置であるECOクリーンが活躍する。

また、この反応は海洋生物・貝類やサンゴによる石灰化(長い年月を経ると、サンゴ礁→石灰岩になる)と同じである。ただし、海洋生物による石灰化はCO が水に溶けた重炭酸イオン(又は、炭酸水素イオン、2HCO3、緩衝液としての作用)とカルシウムイオンとの反応であり、以下の化学式で示されている。

石灰化 →

Ca2+ + 2HCO3  ⇔ CaCO3 + CO2 + H2O

← 溶解

世界の二酸化炭素排出量は、2019年で約335億トンといわれている(全国地球温暖化防止活動推進センター)。これに対し海洋生物による石灰化での年間の二酸化炭素固定量はわずか10億トン(OPRI海洋政策研究所)であるが、二酸化炭素を長期安定化した岩石に変える作用であり、海洋生物による石灰化は原始の地球での大気二酸化炭素リッチの環境(大気中の二酸化炭素濃度96%程度、火星や金星と同じ)から二酸化炭素濃度を低減した(現在の大気中二酸化炭素濃度0.04%)重要な地球炭素循環システムである。

ちょっとデータ

    • 今の宇宙の歴史138億年
    • 地球の歴史46億年
    • 最古の石灰岩38〜39億年前(おそらく無機反応による石灰岩)
    • 最古の生物起源であるストロマトライト石灰岩20〜30億年以上前、その後海洋生物が数十億年の時間をかけて二酸化炭素を固定化した石灰岩の量・・・
    • 現在、日本(日本の陸域面積/地球の表面積=0007)の石灰石埋蔵量約50億万トン、世界の石灰岩埋蔵量 不明

 

ただし、或る文献(地球化学の目でみる炭素の循環,北野康,地学雑誌,1993)によると、炭酸塩(石灰岩)は海洋で堆積しているが、それは陸上でそれただけの量の石灰岩が消失しており、地球上の石灰岩の量は全地球規模でみると変わってはいないことを意味しているらしい。二酸化炭素の課題は平衡と収支で理解しなければならない。頭の中がまたまた混乱してきた。

 

さて、中国のカーボンピークアウト政策「産業分野におけるカーボンピークアウト実施方案」の話題に戻ろう。同方案では、目標、方法は政府が主導し、汚染削減と炭素削減の相乗効果、優良企業が先導、産業配置の転換、環境影響評価や産業構造調整目録の活用による進出規制、工業園区とその近隣の再生エネルギーの活用、省エネに関する法規制と管理監督の執行などが述べられている。これらは大気・水・土壌での環境対策で示されていた政策の考え方に近いと理解した。しかしながら、カーボンピークアウトならではの政策もある。例えば、「炭素排出削減に有利な産業配置の構築:産業の生産能力を、再生可能エネルギーが豊富で、資源と環境に配慮した地域に整然と移転するように導く」である。従来の産業配置の構築は、有利な生産資源の確保というより、汚染拡散の防止のための隔離のように見えていた。

産業分野におけるカーボンピークアウト実施方案(工业领域碳达峰实施方案、2022年7月)の主な政策の整理(途中)を表1に示した。

表1 産業分野におけるカーボンピークアウト実施方案(工业领域碳达峰实施方案、2022年7月)の主な政策の整理(途中)

全体目標 (「第14次5カ年計画」(2021-2025年)期間中である)2025 年までに、一定規模以上の工業企業の付加価値単位当たりのエネルギー消費量は2020 年に比べて13.5% 減少し、工業付加価値単位当たりの CO2 排出量は社会全体の排出量よりも大きく減少し、主要産業のCO2排出量の割合が大幅に低下する。

「第15次5カ年計画」期間中、産業構造と配置をさらに最適化し、産業エネルギー消費と二酸化炭素排出を引き続き低下させ、2030年までに工業用カーボンピークアウト達成する。

二、主なタスク

(4)産業構造の深い調整

①炭素排出削減に有利な産業配置の構築。非鉄金属などの産業の生産能力を、再生可能エネルギーが豊富で、資源と環境に配慮した地域に整然と移転するように導く、など
②高エネルギー消費、高排出、低レベルプロジェクトの抑制。固定資産投資プロジェクトの省エネ審査と環境影響評価を強化し、プロジェクトのエネルギー消費と炭素排出の総合評価を実施し、プロジェクトの承認、提出を厳格に行う、など
③主要産業の生産能力規模の最適化。産業構造調整目録(第一類奨励類、第二類制限類、第三類淘汰類を示した目録、外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)に取り込まれる)の改定、など
④産業用低炭素共同実証を推進。優良企業がサプライチェーン企業間で協力して炭素削減行動を実行、炭素固定化プロジェクトの構築など
(5)省エネ、低炭素化の推進 ①エネルギー構造を調整して最適化。企業や工業園区が近くのクリーンエネルギーを使用することを奨励、など
②産業エネルギーの電化を推進。電力需要側の管理を強化して電力資源配分を最適化する、など
③産業用マイクログリッドの構築の加速。近隣の再生可能エネルギーの消費を促進。エネルギーシステムのカスケード利用を強化。エネルギー貯蔵の適用を加速、など
④主要エネルギー消費機器のエネルギー効率を改善
⑤省エネの管理監督の強化。省エネ監督作業計画を策定し、主要企業と主要エネルギー消費機器に焦点を当てて、省エネ法規と強制的省エネの実施に対する監督と検査を強化する
(6)グリーン製造の推進 ①グリーン低炭素工場の建設
②グリーン低炭素サプライチェーンの構築
③グリーン低炭素工業園区の建設。工業園区内の企業が余剰圧力と排熱の利用を促進、廃水・廃ガス、液体資源を利用して工業園区内のグリーン電力倍増プロジェクトを実施、など
④中小企業のグリーンで低炭素な開発を促進
⑤クリーン生産監査と評価認証を実施
(7)循環型経済の積極発展 ①低炭素原料への代替えを促進
②再生可能資源のリサイクルを強化
③機械・電気製品の再生を促進
④産業固体廃棄物の総合利用の強化。産業廃棄物総合利用基地の建設を推進、2030年には固体廃棄物の総合利用率は62%に達する、など
(8)産業グリーン低炭素技術の変革を加速 ①グリーン低炭素技術のブレークスルーを促進
②グリーン低炭素技術の促進を強化
③重点業界の高度化と変革のモデルを実施

 

江蘇省南京→甘粛省蘭州→青海省西寧→(シルクロード・河西回廊)→甘粛省玉門関(酒泉市敦煌)→新疆ウィグル自治区鄯善市

写真1 青海省東北部門源回族自治県の山間部である。左:門源駅に停車中の車窓から。吹雪模様になってきた。中:山間部であるが大陸だけあって大地は広い。雪の中に転々と見える黒い生き物は羊である。右:中国の新幹線・高鉄の車内販売のお弁当。中国のまぜそば「拌麺(ばんめん)」。みたところ、スパゲッティーである。乗車後、早い時間に時間指定で予約すると、ほぼ正確に予約時間に持ってきてくれる。支払いはスマホ決済。ご飯ものは有るかと尋ねると、この路線では麺しかないとのことであった。

写真2 高鉄は山岳地帯を抜け、再び甘粛省の平原を通る。甘粛省酒泉市付近である。南北を山脈に挟まれた北西―南東に伸びる盆地状の乾いた平原である。シルクロード河西回廊の西端にあたる。中:高鉄に並行して在来線も複数ありそうである。現在も重要な交易路であり、東西を鉄道で結ぶルートはこのラインしかない。右:この平原はどのようにして出来たのであろうか? 地下には何がある?? 途中、掘削した大穴を見かけた。平原を構成する地層は砂と礫、扇状地堆積物と見受けた。遠くに見える山脈が涵養域になっているはずである。大穴には水面が見えている。たまに流れる表流水を蓄える貯水池の役割であろうが、水面の位置は地下水位かもしれない。遠くタクラマカン砂漠にある地下水も、この回廊の地下を通り、永い年月(10万年〜100万年?)をかけて太平洋まで流れているかもしれない。

 

写真3 左:嘉峪関付近。敦煌も近くにあり、中国人観光客の多くは下車して行った。中:イスラム寺院も多く見かけ、目的地“鄯善”(日本語・ぜんぜん、中国語・シャンシャン、ウィグル語・ピチャン)の車内アナウンスが中国語とウィグル語の2言葉で語られるようになる。右:タクラマカン砂漠の東に位置して山脈に挟まれた回廊は風の通り道でもあると思われる。車窓からは数え切れないほどの風力発電設備が見え始める。再生エネルギーの産地であるこの地に産業が誘致されるのであろうか? その際に必要となるのは水。写真2に示したとおり、乾燥したこの地にも地下水は有る。求められるのは用水の循環再利用ができる新しい水再生技術と思われる。