十数年前のこと、機内誌に連載されている高名な作家のエッセイで、海外渡航で持ち忘れてはならない「3点セット」について紹介していた。
海外出張の際、私が必要な持ち物を思い返す良き教えである。この3点セットとは、パスポート、クレジットカード、そしてEチケットであった。
しかし、今ではEチケットを提示する場面はすでに無い。今の「3点セット」は、パスポート、クレジットカード、そして航空券情報が入り海外で支払いができるスマホであろう。中国へ行く場合は出入国の際の「健康申告」でもスマホは必要だ。
WeChatで申告登録すれば基本データが、保存され2回目以降は楽である。
海外出張の前夜、いつものように私は必要な荷物を手持ちのカバンに、スーツケースに詰める。
ただ、この「3点セット」だけは体に身につけ移動する。9月上旬、私はコロナ後2度目の上海、合弁会社SHARTへ向かった。
一枚の写真を紹介したい。この写真は上海SHARTでの社内会議の後、社員がスマホから取り出しWeChatで共有してくれた写真である。
その時の彼が思わず発した一言「会議参加者全員が、この写真の中にいる」。
左:参加者全員の集合写真、SHART社員が残していた写真。
中:羊肉会でのメニュー、串焼きがメイン。
右:この日の白酒、四川省東方韻52度。中と右は私が残していた写真。
2020年1月16日、上海のある焼肉店での一枚の写真(写真1左)。
6人の男達、20代から60代、全員が中国駐在者、羊肉会の後の一コマ。羊肉会とは、年2回のリスクコンソーシアム勉強会の後や、1がつく開催可能日に有志が集まり、羊肉串焼きを楽しみながら、地元ビールや節度ある量の白酒を味わい、未来の安全環境ソリューションについて語り合う会である。
この写真撮影の1週間後、コロナによる武漢市都市閉鎖が行われた。コロナ禍の影響などで写真の6人中5人がそれぞれの所属会社を変えた。
それでも今、写真の全員が会社の内外で、新しく設立した合弁会社上海SHARTの運営に関わっている。
SHARTは中国上海合弁会社で、安全、電気、消防、廃棄物処理、環境対策機器の専門企業や、教育・介護を目指す企業が参加し設立した。
上海を拠点にしながらも、サービス地域は、フィリピン、ベトナム、カンボジア、タイ、マレーシアを含む、南アジアからアフリカ。さらに中南米にも視野を向けている。その国の制度・文化・ニーズに基づき、安全・環境・教育・介護のソリューションを一社で提供することができる。
海外で培った専門的経験、出資会社の支援を受けながら、未だ見ぬ土地での仕事展開に踏み出している。羊肉会での議論と団結から、同社しかできないソリューションを展開するはずである。
2023年9月13日、再び上海にて、羊肉会が催された。先の写真と同じ系列のお店「狼来たる」である。さらに1名が参加。これで、写真1と2を合わせると、初期メンバー全員が写真の中にいる。
左:写真1に1名追加。これで初期メンバー全員となる。
中:お店の入口、店名は「狼来たり」。
右:サイドメニュー、定番の皮付きピーナッツ、枝豆、エノキ焼き、カキやホタテの刻みニンニクたっぷり焼き。
左:たっぷりクミンと串焼き。クミンは店ごとに、挽き方や材料の組み合わせに特徴がある。羊肉とクミンの組み合わせは、特に中央アジアや中国の新疆地域、中東、北アフリカなどの料理で非常に人気があるらしい。
中:羊腿の丸焼き。本日のメイン。上海での肉が、柔らかくて最も美味しいといった私の評価。上海でこそ、羊料理を薦める。
右:店員が焼けている表面の肉を薄く削ぎ取ってくれる。焼き方が足りない部分が出てくると、再び奥のグリルで炙り焼きして持ってきてくれる。
話題を変え、中国の「重点管理新汚染物リスト」(重点管控新污染物清单(2023年版)、2023年3月)および「水資源の保全と集中利用のさらなる強化に関する国家発展改革委員会およびその他の部門の意見」(国家发展改革委等部門关于进一步加强水资源节约集约利用的意见、发改环资〔2023〕1193号、2023年9月)について紹介する。
「重点管理新汚染物リスト」では、PFOS、PFOA、PFHxSの三物質については、生産、使用、輸出入が禁止される。さらに、前者二物質は、企業に対して土壌汚染リスク評価の実施が示されている。
土壌汚染リスク評価に関して調査方法は示されてはいないが、中国の場合、毒性評価は国内外のパラメータを用いたリスク評価であることから、リスク評価の判定結果は欧米と同じ判定となる可能性がある。日本より先進的制度の仕組みが残されている。
泡消火剤の使用を含めて、PFOSおよびPFOAの使用・加工・保管の履歴がある工場は履歴調査を進め、対応策を持つことを推薦する。
「水資源の保全と集中利用のさらなる強化に関する国家発展改革委員会およびその他の部門の意見」では、使用できる工業用水の減少が定められている。今後、現地で活躍する工場は、工業・生活用水の節水・創水の取り組みが必要になる。
流機は、PFAS対策および節水・創水対策で、環境装置ソリューションを持っている(表1)。中国では上海SHARTが顧客対応・ラボ試験・設備提供(設置、運転指導)を行う。
「重点管理新汚染物リスト」
日本の化審法に類似点がある制度である。2023年版では管理汚染物にPFOS、PFOA、PFHxSが示されている。それぞれの物質に対して、主要環境リスク管理措置方法が示されている。PFOSに対しては以下のとおり示されている。
② 加工使用を禁止。泡消火剤の生産に関しては例外。ただし、使用免除期間は2023年12月31日まで
③ PFOSを含む泡消火剤の生産企業は、強制的なクリーン生産監査を実施
④ PFOSおよび関連化合物の輸入・輸出は、2024年1月1日から禁止。それまでは環境管理許可が必要
⑤ 使用や廃棄が禁止されたPFOS関連物質は、危険廃棄物として適切に管理
⑥ 土壌汚染を防ぐため、PFOSを使用する企業は土壌汚染リスク評価制度を実施
「水資源の保全と集中利用のさらなる強化に関する国家発展改革委員会およびその他の部門の意見」
工業関係では要約すると、以下のとおり示されている。
2025年まで年間用水量は6400立方米以内に管理
1万元当たり国内生産用水量は2020年比で16%減
1万元当たり工場の増水用水量も2020年比16%減
実装する最厳格水管理制度:
四 工業節水の強化
(九)水不足地域では、新規の高水消費プロジェクトの取水許可を厳しく制限する
(十)2025年までの大規模工業用水の再利用率を94%に達成することを目指す
(十一)企業が節水改革行うよう指導。新規または拡張プロジェクトでは、節水計画を立て、節水設備を設置すること
上海から帰国後の9月下旬、水環境学会で話す機会をいただいた。感謝。その会で紹介した内容の中に、沖縄湧き水の原水井戸に溜まった砂がある(写真4)。この砂が現地で稼働している地下水PFAS浄化装置のファウリングの原因物質の一つとなるが、現地では関係者の熱意と創意工夫でファウリング防止対策を取り入れながらの浄化が進められている。
一握りの砂であっても、その粒度組成や鉱物組成がわかれば様々な地質的な歴史(堆積物の供給源、運搬経路、侵食・運搬・堆積の水の作用の具合、堆積した環境)が解る。今、私たちは新しい沖縄湧き水現場でのPFAS浄化の準備をしているが、足元に溜まった砂にも目を向け、地元の地質的歴史に思いを馳せてみたい。
左:沖縄湧き水の原水井戸に溜まった砂。粒度組成:シルト(1/256-1/16mm)、細粒砂(1/16-1/4mm)、中粒砂(1/4-1/2mm)。鉱物組成:石英、長石、石灰岩岩片等、Ca含有量50,000mg/kg-Wet。
右(図):ユールストロームダイアグラムから、地下水の流速は、侵食域20cm/sec以上(場所は数百m離れた段丘崖斜面?)、高濁度時の現地(運搬域として)1cm/sec以上、地下水であるが川のような早い流れが推定される。
山内仁の紹介
株式会社流機エンジニアリング
アジアアフリカ環境ソリューション室 室長
国立弘前大学教育学部卒業、同大学院理学研究科(地質)修了。理学修士。専攻:地質学、堆積学、教育学。技術士(応用理学部門(地質)、総合技術監理部門)。
大手コンサルに所属していた1994年ニカラグア国マナグア市上水道整備計画基本設計調査(JICA)、1998年汚染土壌等復旧工事総括監理業務(環境省)に従事。エンバイオ・グループに所属していた2012年から中国での土壌汚染対策に従事。近年は操業中工場向けに診断から様々な環境対策(排気・排水・土壌・廃棄物・水資源活用)を提供する中国環境リスクソリューションを構築する。2021年2月より、現職。