「排水ゼロ・用水の循環再利用」とは流機水ソリューションが目指すところである。CO2の排出出量を低減しながら限られた水資源を有効に活用し、さらに水処理の過程で有用金属や窒素・燐などの有価物の回収・再利用を進めることができる技術の特徴がある。水処理が単に基準適合に向けたプロセスではなく、企業活動が将来にわたって現在の社会の機能を継続していく一員となるシステムやプロセス(サステナビリティ)の構築を目指している。
ここで使用する装置は、オゾンマイクロバブル、MF膜ろ過装置ECOクリーン、プリーツフィルター+機能性粉体法の水処理装置ECOクリーンLFP(Liquid・Filter・Powder)等の組み合わせとなる。
一方、中国でも“廃水ゼロ排出”の取り組みとともに水処理対策が進められている。“廃水ゼロ排出”とは、環境保護政策の一環として工業廃水を直接環境に放出せず、代わりに再利用やリサイクル、あるいは適切な処理を行い、水資源を保全しようとする取り組みである。具体的には、工場や産業施設が排出する廃水を、先進的な技術を使用して浄化し、可能な限り再利用することを指す。これには、物理的、化学的、生物学的処理技術が含まれる。もちろん、最終的に排出される水の質は国家や地方の環境保護基準に適合させることが求められている。中国では水資源の不足や水汚染が深刻な問題となっており、環境基準の厳格化、水資源の効率的な使用、汚染防止のための技術革新が進められている。ゼロ排出政策は、これらの問題に対処するために設けられた一つの戦略であり、工業企業のみならず都市、農地に対して環境への負荷を減少させると同時に、水の持続可能な管理を求めている。
この取り組みは2017年頃から議論されており、廃水の排出量に基準はないものの、全国工業用廃水ゼロ排出討論会などの資料では廃水を再利用して最後に捨てる水は用水の15パーセントとの見解が出ていた記憶がある。2019年、水に関する政策「国家節水行動方案」では用水総量規制、2022年6,700億m3以内、水資源の循環利用と節水率世界先進水準が示されていた。一方、2023年「水資源の保全と集中利用のさらなる強化に関する国家発展改革委員会およびその他の部門の意見」では、2025年まで年間用水量は6,400立方米以内に管理するとされ、2019年当時よりさらに厳しい政策が示されている。中国では今後、使える用水の量が増えることはない。工場の生産を増やすためには、節水や水リサイクル率の向上、また、今まで利用されていなかった雨水貯水池の水などの利用が必要になる。
上海SHARTと流機との技術交流が進んでいる。流機は排水ゼロを目指す水処理で用いるオゾン発生装置やRO膜について、信頼できる中国技術・製品の調査をSHARTへ依頼していた。オゾン発生装置は有機ファウリングの原因となる有機物の分解、RO膜は活性炭の吸着剤では除去が困難な塩化物イオンなどの高度除去に用いる。大陸の水は硬水、陸水は使いまわされており、そもそも水質に溶存物質が多い。このような背景の中で開発製造されているRO膜は排水処理においてはタフな使い方ができるかもしれないといった期待が中日の技術者にあった。紹介を受けたオゾン発生装置およびRO膜のメーカーは、それぞれ南京市と贵阳市(グイヤン市、貴陽市)に所在している。両市とも歴史のある土地、紙面を改めて紹介したいところである。
写真左・中:浄化の準備を進めている湧き水施設にいつも居る、アヒル。
右:次第になついたのか、白いハンカチを振る手の近くまで寄ってくる。かつては“つがい”で居たという。寂しいであろう・・・しばし心を通わせてみたい。
水を再生する取組み、PFASによって汚された水資源浄化の取組みが始まっている。沖縄県内では2件目の浄化事例。現場を進める上で現地へ行くと必ず見守ってくれる白いアヒル(写真1)の存在が気になっていた。その現場では、水の他にも、土石・植物・動物・アヒルも大切な保全対象となる。
左から、南京の名物料理・南京塩水鴨料理。会食の席では必ず食する。南京市街中にある鴨・ビーフン店内の昼食どき、外には行列が見える。
鴨のアタマ、クビ、レバー、ホルモンなど、羽を除く全てが具材となっている。人気の食材。
赤辛く煮詰めたクビは、せせり肉が残り、口の中にしばらく留めると、子供の頃に試した梅干の種の趣がある。
アヒルは英語名でduck、料理・北京ダックのduckであるが、南京の名物料理・南京塩水鴨料理(写真2)の鴨とどう違うのであろうか?
アヒルと鴨の学名を調べてみた(表2)
アヒル Anas platyrhynchos = 鴨 Anas platyrhynchos ・・・同じである!
表2 アヒルと鴨、生物分類と学名
生物の分類 | アヒル | マガモ(真鴨) | 現代人 | 特徴・対応する生物 |
---|---|---|---|---|
英語 | duch | mallard duck | ― | ― |
科 | ― | カモ科Anatidae | ヒト科 | 約4百万年前、直立二足歩行の生物出現で枝分かれした生物 |
亜科 | ― | ― | ヒト亜科 | ゴリラ |
族 | ― | ― | ヒト族 | チンパンジー |
属 | ― | マガモ属 Anas | ヒト属 Homo | 原人、旧人類 |
種 (学名、属と種で表記) |
Anas platyrhynchos | Anas platyrhynchos | ヒト H. sapiens | ホモ・ネアンデルターレンシス H. neanderthalensis |
品種 | アヒル | ― | ― | ― |
小生、約40年前になるが古生物と種について少々学んだ。当時の種の概念は自然条件下で交配して生殖的できる集団と理解していた。種が同じということは、親子兄弟となりうる同じ生き物! アヒルはマガモ(真鴨)を品種改良した家禽品種で生物学的にはマガモの1品種。アヒルとマガモの交雑交配種であるアイガモもまたマガモである。
この技術交流の中で、「低温真空蒸留法による廃液処理装置(図1)」の紹介を受けた。この方法の特徴は有機物等でかなり汚れた廃水でもほぼ前処理無しで適用でき、“浄化水”と“汚れ濃縮水”に分離できる。切削液処理の処理もできる。ただしこの場合、排水基準に対してCOD値の低減が十分ではなく、処理水を同装置後段でNF膜処理装置に通しCOD排水基準適合を達成している。「排水ゼロ・用水の循環再利用」達成のためには、新しい技術の開発と組み合わせが必要である。LFPとRO膜と低温真空蒸留法技術の特徴を表1にまとめてみた。
表1 LFPとRO膜と低温真空蒸留法技術の特徴
技術 | 取り扱い可能な水質・ 原水の汚れ具合 |
水処理時の 消費電力 |
ろ過 圧力 |
処理後の水質 |
---|---|---|---|---|
LFP | 当該フィルターで十分なろ過ができる程度の清浄度まで前処理必要 | 0.2〜0.7kWh/m3 | 1-100kPa |
<事例> 原水COD4,000mg/L→12mg/L(基準・日本120mg/L、中国60〜500mg/L) PFOA10万ng/L→2.5ng/L |
RO膜 NF膜 |
RO膜:水道水並みの清浄度が求められる FI値・上限5、3以下を推奨 浄水場の急速ろ過水のFI値3〜4 |
― | RO膜:750〜1500kPa NF膜:100〜1000kPa |
様々な性能のRO膜を用いて、基準適合可能 |
低温真空蒸留 | 最も低い清浄度 有機物質等の高濃度の不純物を含む水で良い |
90kWh/m3 | ― | <事例> 切削液COD6,000mg/L→900mg/L |
ただし、最新の種の概念は、「ネアンデルタール人(現代人とは別の種 表2参照)由来のDNA断片をすべて集めると、およそ40%が今も私たち人類の体に残っており、また新型コロナウイルス感染症の重篤化に関連する遺伝子もネアンデルタール人由来の変異があるという(2022年ノーベル賞受賞者のスヴァンテ・ペーボ教授、出典:Wikipedia)」と示されている。科学の常識はしばしば変わる。また、科学の領域に人間が引くことができる明瞭な境界はない。
さて、このアヒル=鴨、色の好みがあるか調べてみると、色の好みはないという。では、白いハンカチに招かれるようにやってきたアヒルは(写真1)、白い色にひかれたのではなく、ハンカチを持つ手に惹かれたか? このアヒルの生態にも親しく配慮しながら、現地浄化の準備が進められている。この現場でも、浄化効果の他に、電力使用量やCO2排出量の実証を行う。
先日、外資系環境コンサルに勤める知人から、流機技術LFPの英文論文資料、CO2排出量の問い合わせがあった。EUのCSRD(企業サステナビリティ報告指令)への対応の準備らしい。CSRD指令(2022年公表、2023年1月発効)では12の基準が示されている。このうち環境関連は以下の5つである。弊社環境設備仕様には、今後、環境コンサルや工場・ユーザーが下記の基準取りまとめの際に分かり易い表記が必要になる。ESRS E1:E1気候変動ではCO2排出量の表明が必要になるはずである。危機感を持て進められている気候変動対策=カーボンニュートラル、地球温暖化の原因がCO2等である科学の常識が未来に向けて揺らがないことを期待する。
ESRS E1 | :気候変動 |
ESRS E2 | :汚染 |
ESRS E3 | :水・海洋資源 |
ESRS E4 | :生物多様性と生態系 |
ESRS E5 | :資源利用と循環型経済 |
山内仁の紹介
株式会社流機エンジニアリング
アジアアフリカ環境ソリューション室 室長
国立弘前大学教育学部卒業、同大学院理学研究科(地質)修了。理学修士。専攻:地質学、堆積学、教育学。技術士(応用理学部門(地質)、総合技術監理部門)。
大手コンサルに所属していた1994年ニカラグア国マナグア市上水道整備計画基本設計調査(JICA)、1998年汚染土壌等復旧工事総括監理業務(環境省)に従事。エンバイオ・グループに所属していた2012年から中国での土壌汚染対策に従事。近年は操業中工場向けに診断から様々な環境対策(排気・排水・土壌・廃棄物・水資源活用)を提供する中国環境リスクソリューションを構築する。2021年2月より、現職。