2023年12月7日、日刊工業新聞社主催の「PFAS規制への対応今後の見通し」オンラインセミナーに、当社アジアアフリカ環境ソリューション室室長の山内が登壇いたしました。
「フィルターと機能性粉体を用いた処理法によるPFAS土壌・地下水の浄化技術」と題して、地下水・土壌環境の保全、生物多様性をはじめとする自然環境の保全、化学物質の環境リスク評価・管理、および環境の質の向上に関する技術を解説いたしました。
当日の参加者は1000人を超え、大変注目されるセミナーとなりました。
フィルターと機能性粉体を用いた処理法による
PFAS土壌・地下水の浄化技術
目次:
①フィルターと機能性粉体を用いたLFP法とはなにか?
②なぜLFPが効果的なのか
③開発の経緯/基礎技術FP法とPFAS水汚染浄化への地元の期待
④粉体のハンドリングの煩雑さを解決した装置の特徴
⑤機能性粉体の選択により様々な用途(畜産排水、CO2濃縮など)に展開できるLFP
⑥PFAS地下水汚染浄化採用事例
⑦他工法との組み合わせによる 土壌浄化への展開
⑧浄化設計実施の手順
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①フィルターと機能性粉体を用いたLFP法とはなにか?
LFP法とは、「Liquidを、Filterに添着させたPowderでろ過・浄化する」仕組みです。
独自のプリーツフィルターの表面に、機能性粉体(PFAS浄化の場合は粉末活性炭)を厚さ1ミリ程度で添着し、原水を通過させ、粉末活性炭でろ過することにより浄化されます。
ここでの「添着」とは、フィルターに粉末活性炭を密に積層させる=「添着層」を作るということです。この添着層を通過する時間は約10~50秒で、比較的迅速に浄化が行われます。
左の表は、LFP法における有機化合物の除去効果を示しています。
すべての原水(①~⑤)が99.9%以上の除去率を示しています。
次に、同じ原水を使用したLFP処理と粒状活性炭(GAC)処理の比較を行います。GAC処理はPFAS浄化において従来使用されてきた方法です。
例として、原水はPFOS・PFOA・PFHxSの合算値が6,978ng/Lのものです。
LFP処理は2.7g、対照的にGAC処理は269gの活性炭を使用します。LFP処理はGAC処理に比べて1/100の使用量です。また、ろ過通過時間に関しても、LFP処理はGAC処理の約1/10の時間で処理が完了します。
しかし、処理の結果は以下の通りです。
・LFP処理:原水6,978ng/L → 1ng/L、除去率99.98%
・GAC処理:原水6,978ng/L → 2,721ng/L、除去率61%
これほどの効果の違いが出るのです。
②なぜLFPが効果的なのか
このような効果の違いが生じる背景について説明します。
図に示されているように、機能性材料を粉体化すると単位質量あたりの表面積が増加し、反応や吸着の効率が向上します。
さらに、LFPでは粉末活性炭をフィルターの上に密に添着させることで粒子間の空隙を狭め、PFASと活性炭表面の接触を効果的に促進しています。
これにより高い除去率・吸着速度・吸着容量を実現しています。
左のグラフは、LFPの効率特長を示す試験結果です。
A)原水濃度は18,761ng/L上昇しましたが、処理水濃度は10ng/L上昇とほぼ吸収されています。
B)原水濃度は6,963ng/L上昇し、それに伴い処理水濃度も5,896ng/Lに上昇しています。
粉末活性炭添着層の濃度低下曲線は「y=ax -n」で表すことができます。
通水初期に前方の活性炭は、高い濃度のPFASに接し大きな吸着容量になります。
その後添着層の破過の進行を見ながら設定濃度をあげることで、後方の活性炭も高い濃度のPFASに接することができ、活性炭全体が大きな吸着容量を維持します。
技術の経済性について、従来のGAC処理に比較するとランニングコストは約1/3になると予想されます。
また、環境負荷度については、LFPのCO2排出量は従来技術の1/3~1/7に減少すると予想されています。
③開発の経緯/基礎技術FP法とPFAS水汚染浄化への地元の期待
LFP法ができる前、当社では既に機能性粉体の効果を排気処理で活用していました。
フィルターに粉末活性炭を添着させ、そこを排気が通過することによってVOCsを除去するというものです。(FP法)
この技術を受け、水処理に発展させたものがLFP法です。
沖縄のPFAS地下水汚染問題から現地の湧水の浄化依頼があり、LFPの装置化が始まりました。
④粉体のハンドリングの煩雑さを解決した装置の特徴
機能性材料を粉体化することのメリットは前述したとおりですが、処理の際に粉塵が舞ったり、ハンドリングが難しいというデメリットもあります。
しかし、LFPは装置の自動化でこれらの問題を解決しています。従って、ランニングコストに優れた仕組みになっています。
また、フィルターはプリーツ(ひだ)を形成していますので、従来のバグフィルターに比べてコンパクトという特徴があります。
⑤機能性粉体の選択により様々な用途(畜産排水、 CO2濃縮など)に展開できるLFP
LFPはPFAS専用の装置ではありません。
PFASの浄化には活性炭を使用していますが、ゼオライトを使えば畜産排水の窒素・アンモニア除去が可能になるなど、目的に合わせた機能性粉体を選択し添着させ、吸着ろ過することができます。
⑥PFAS地下水汚染浄化採用事例
沖縄の湧水公園へLFP浄化装置を納入しました。画像は実際のプラント装置です。
メインのろ過装置、原水タンク、活性炭供給のスラリータンク、使用済み活性炭の脱水装置などで構成されます。
そしてここに、ろ過流量やフィルター差圧、濁度などのリアルタイムオンラインモニターが備えられています。
処理能力は1時間に30tで、PFOS・PFOAの処理後濃度は合算で50ng/L適合、また約37㎥の建屋に収まるという条件で設計しました。
⑦他工法との組み合わせによる 土壌浄化への展開
地下水汚染源としての土壌を浄化する場合は、土を掘り出すよりも、原位置の地面の中で浄化する方法が効果的です。
PFASは分解しにくいため、地下水揚水処理と組み合わせ、汚染源の近くで濃度の高い水を汲み上げ地上で処理するのが一般的になるでしょう。
ただし、無害化のためそのまま焼却処分するのは、量・コストともに非現実的です。そこで減容化が必要になり、今回のLFPが有効となるのです。
⑧浄化設計実施の手順
処理の水量・水質のデータを分析し、ラボ試験を実施した後、現場で小型試験機の適応試験を行ったのち、プラント設計を行います。
LFPには様々な大きさの装置があり、高さ2メートルほどの50M機や縦横1メートル以内に入る小型の装置もご用意しています。
まとめ
・LFPはフィルターに機能性粉体を添着し、吸着ろ過して浄化する処理方法
・機能性材料を粉体にしてフィルター上で密に添着させることで、低いランニングコストとCO2排出量が実現できる
・試算値では処理単価が1/3~1/7
・技術の応用性があり、土壌浄化、畜産排水処理、窒素の循環再利用、CO2の固定化にも期待される
山内仁の紹介
株式会社流機エンジニアリング
アジアアフリカ環境ソリューション室 室長
国立弘前大学教育学部卒業、同大学院理学研究科(地質)修了。理学修士。専攻:地質学、堆積学、教育学。技術士(応用理学部門(地質)、総合技術監理部門)。
大手コンサルに所属していた1994年ニカラグア国マナグア市上水道整備計画基本設計調査(JICA)、1998年汚染土壌等復旧工事総括監理業務(環境省)に従事。エンバイオ・グループに所属していた2012年から中国での土壌汚染対策に従事。近年は操業中工場向けに診断から様々な環境対策(排気・排水・土壌・廃棄物・水資源活用)を提供する中国環境リスクソリューションを構築する。2021年2月より、現職。
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